2009年05月16日

卓球部のアレ その1

俺の名前は由本ヒロト。皆からはヒロトって呼ばれてる。
成績普通。体格普通。顔は…まあ悪くないと思ってる。
一応、青春の一貫として卓球部に所属しているけど、あんまりやる気は無い。
どちらかというと、他の部活の観察に余念がない。
そう、例えば体育館の"もう半分"を使って練習に励んでいる、バレー部とか。
主に、その中心で綺麗な黒髪を揺らしている、遠山先輩が気になっちゃったりしている。



先輩との出会いは、ついこの前のことである。
いつものように焼きそばパン片手に屋上へやってきた俺を待っていたのは、突然の突風。
そして、小さな悲鳴。
俺の目の前に突如として広がるお花畑に、動揺するどころか、かえって落ち着いてしまった。

「…見ちゃった?」

目の前で、先輩は顔を赤らめていた。
もちろんそのパンツの苺柄は、しっかりと目に焼きついている。
こんなストレートに質問されては否定せざるをえないのだが…。

「あ、あの…いえ。」

男というのは、こんな時に嘘をつくのが苦手なようだ。
しっかりと顔に出ているのが、自分でもよくわかった。
しばらくの沈黙の後、遠山先輩は何を言うことも無く、俺の横を走り去った。
階段を鳴らす音が途切れた時に、我に返った俺。
押し殺していた動揺が溢れ、顔を赤く染めた。



神様のいたずらというのだろうか。
偶然にも先輩は同じ通学路を通っていたのだ。
翌日の登校時、商店街の入り口でばったりと顔を合わせた俺達。
どちらが意識するわけでも無く、自然と目を反らした。

「ヒロト!」

気まずい空気を断ち切るが如く現れたそいつに、今日ばかりは感謝せずにはいられなかった。

「おはよっ。珍しいね、早いじゃん。」

こいつは俺の幼馴染、小林ミヤコ。
俺が覚えている限りでは、幼稚園の頃からの付き合いだ。
隣の家に住んでいるため、家族ぐるみで仲が良い。
小学校の頃は毎朝一緒に登校したものだが、今ではお互いに高校生。
自然と気恥ずかしさのようなものが現れ、登校はおろか最近は一緒に遊ぶ機会もあまり無い。

「…何ぼうっとしてんの?ほら行こ、遅刻するよ!」

通学鞄で軽く背中を叩かれた。
こういう乱暴なところは、昔から変わらないな。
気づくと、遠山先輩は道のずっと先を歩いていた。



そんなこんなで、ボール拾いもそこそこに、先輩の観察に夢中だった俺。
ふいに頭から覆いかぶさった網に、リアクションをするのを忘れるほどであった。

「おーい、ヒロト!聞いてんのかー?」

振り返ると、そいつは虫取り網のようなボール集め用具を片手に、ひらひらと手を振っていた。
野口大臣、一年の頃から仲の良い、言わば悪友ってやつだ。

「…なんだ、ものぐさか。今日は練習じゃないのか?」

ものぐさというのは、こいつのあだ名である。
のぐちをもじってものぐさである。
実際に本人もものぐさな性格なのだから仕方が無い。

「あー、なんか右ひざの半月板に違和感があるからって、フケてきた。」

この通りである。
まあ、部活に対する情熱については、俺も人のことを言えないのだが。
しかし、ラグビー部という男臭くて泥臭い部活に対してこの態度。
全く、よくわからない奴である。

「…で、何の用だよ。」

頭に被さった網を手で払いながら、呆れた口調で訊ねると、ものぐさは思い出したように、口元だけで笑った。
何かを企んでいる顔だ。

「ヒロト、遠山先輩のことが気になるんだろ?」

自然と顔が強張った。
平常心を心がけるも、ここまで確信を突かれては逃れようがない。

「…なんで知ってるんだよ。」
「うはっ、なんでも何も、見てりゃわかるって。」

確かに、そうかもしれない。
思い当たるフシは沢山あった。
隠し事の苦手な自分を恨んだ。

「で、だからなんだよ。あれか?内緒にしてやるから金貸せーとか、そんなところか?」
「ばっ、違えよ。…まあ、金は借りるけどさ。」

借りるのかよ。

「その、あの、あれだ。お前さ、ミヤコちゃんと仲良いんだろ?」
「へっ?」

予想外の名前が飛び出したものだから、少し面食らってしまった。

「ま、まあ。そこそこな…。」
「ぬふっ、だよね!だよねー!幼馴染だもんね!」

なんだこれ。
かつてないウザさ。
しかしどこか、弱みを握られたような錯覚に襲われて、何も言えない。

「頼む!ヒロト!一生のお願い!」
「なんだよ、早く言えよ…。」

早く聞きたいというより、この会話を早く終わらせたい一心である。

「…あ、あのな…実は、俺…ミヤコちゃんのことが好きなんだ!」
「あー、ミヤコのことがねえ。…って、ええええええええ!!」
「うわ、ちょ、大声出すなよ…!」

他の卓球部員達の視線が集まっているのを感じた。
少しやっちまった感があるが、本気で驚いたのだから仕方が無い。
ものぐさは周りを気にしながら、顔を近づけて小声で言った。

「あのさ、実は…東京ディスティニーランドのチケットが、四枚あるんだ。ほら、俺の父さん株主だろ。」
「ああ、あの親父さんが…知らねえけど。」
「そこでな、俺は、遠山先輩誘うから、お前はミヤコちゃん誘ってくれよ。」
「…まあ、俺は大丈夫だけど。遠山先輩なんてどうやって誘うつもりだよ。」
「フフッ、実はな。俺の母さんが…。」
「…お前の家族すげえな。」

聞くところによると、ものぐさの母さんと遠山先輩の母さんが、なんやかんやで仲が良いらしい。
長々と自慢げに話すものぐさの話を半分に聞きながら、俺は先輩を目で追っていた。
どうせ真剣に聞いていても、何ひとつわからないだろう。
こいつはそういうやつだ。

だが、ともかく…。
予想外の所からチャンスが転がってきたのは事実。
俺は美容院で髪型を整え、お気に入りのセレクトショップで春物の服を買い、万全の状態で約束の日を迎えた。
期待しすぎまいと思いつつも、足取りは軽かった。
posted by トドロキ at 22:59| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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